「どうしたの? 創ちゃんもお兄ちゃんも恐い顔して。変なの」

 あっけらかんとしている礼奈に、俺は口を尖らせる。

「礼奈、大切な話がある」

「なぁに?」

 俺の腕に抱き着く礼奈は、いつもの礼奈だ。 なんか調子が狂うな。

「あのさ、LINEのことなんだけど」

「LINE? あっ、アレね。ごめんなさい。創ちゃんにLINEしていたら、先輩が訪ねて来たから間違えて送信しちゃったの。休憩時間はずっと話してたし、帰りは桐生君や百合野と一緒だったからLINE出来なくて、ごめんね」

 なーんだ、誤送信か?
 先輩? どの先輩だよ?
 勿論、女だよな?

「先輩って?」

「山梨先輩と一橋先輩」

「勿論、女子だよな?」

「中学校の先輩だよ。元サッカー部のキャプテンと元生徒会長。山梨先輩は今もサッカー部のエースで、一橋先輩は今は生徒会の副会長なんだって」

 礼奈は懐かしい先輩に高校で再会したと、興奮気味に語ったが、俺の脳は沸騰したお湯みたいにぷくぷくと過熱する。

「礼奈、あのな。男はみんな狼なんだよ。カッコいいスポーツ少年も、爽やかな生徒会の副会長も、みーんな狼なんだよ」

「ふーん、創ちゃんみたいに?」

「うん、俺みたいに。……っ、コラッ! 俺は違うだろ。だって俺はずっと我慢してるだろう」

「そうかな? 男子がみんな狼なら、創ちゃんも狼だよ」

「こら、話を摩り替えるな」

「先輩とは話をしただけだよ。桐生君は友達だし、百合野も一緒だったし」

「入学式の時、桐生とコショコショ内緒話をしてたよな」

「あれは……単なる雑談だよ」

「そうかな? 怪しい」

「創ちゃん、妬いてるの? 礼奈のことを信じてくれないの?」

「礼奈は信じてるよ。周りの男子が信用出来ないだけ」

「だったら、独り占めしてもいいよ」

「……っ」

 独り占め?
 どういうこと?

「こら、俺を狼にしたいのか? 俺はそう簡単に狼にはならないよ」

 プルルと礼奈の携帯電話が鳴り、着信画面には桐生の文字が表示された。

「がうぅー!」

 一瞬で俺は、狼へと変身した。