【創side】

 礼奈の入学式に参列した俺は、渡り廊下で礼奈に何やら耳打ちする桐生に苛立ちを覚えた。

 厳粛な入学式が執り行われる中、俺の視線は桐生と礼奈に釘付けだ。

「創、もう気がすんだだろう。大学に行こうぜ」

「おう」

 敏樹と一緒に講堂を出て、俺達は法凛大学に向かう。悶々とした気分のまま講義を受けていると、携帯電話がバイブ音を鳴らした。

 LINEは礼奈からだったが、その一文に首を傾げる。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君とは】

「なんだよこれ? どういう意味?」

「どうした創? なになに、これって……本当は付き合ってるって意味じゃね?」

「はぁ!? マジで!」

 思わず立ち上がった俺は、教授から授業妨害だと怒鳴られる。

「……すみません」

 教授に謝罪し、すごすごと席に着く。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君とは】本当は付き合っています。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君とは】本当はラブラブなの。

【創ちゃん、今日はありがとう。桐生君とは】愛し合ってるから、別れて。

 ぐあああー……。
 妄想が次から次へと頭を過り、もはや講義どころではない。

 俺はLINEの返事を打つ。

【礼奈、大切な話がある。夕方礼奈の家に行くから。】

 もしも、本当に別れて欲しいと言われたら、俺はどうすればいいんだ。

 ガックリと項垂れた俺の隣で、シスコンの敏樹が新たな敵を見つけ、ポキポキと指を鳴らした。

 講義を終えた俺は、夕方敏樹と一緒に礼奈の家に向かった。

 礼奈はもう帰宅していて私服だった。Vネックのボーダーシャツと黒のチュールスカート。太ももがチラチラし、思わず目のやり場に困る。

「礼奈、あのLINEはどういう意味なんだよ。本当は桐生って男子と付き合ってんだろ。兄ちゃんはわかってるよ」

 俺より先に敏樹が口を開いた。
 しかも、桐生と交際している前提だ。

「敏樹、お前はハウス! 部屋に行ってろ。これは俺と礼奈の問題だ」

「ハウスだと! 俺は犬じゃねえ!」

 敏樹は『う゛ーう゛ー』吠えてる、煩い犬だ。

「頼むから二人にしてくれないか」

「二人きりになって、変なことすんなよ!」

 アホか、礼奈のLINEの続きが気になって、俺はそれどころじゃない。