―フローラ大学附属高校・合格発表当日―

「やったぁー! 創ちゃん、見て見て、合格したよ!」

 大学に行く前に、礼奈と二人で構内に貼り出された合格発表の前に立つ。

 大勢の受験生が合格発表に見入る中、一目も憚らず俺に抱き着いた礼奈。

 ま、ま、さ、か、礼奈がこの難関校に合格するとは!?

 神様も……魔が差すことがあるのか?
 それとも、神様の手違い。
 運命の悪戯、いや、運命のミス。
 神様、惚けたのか?

「礼奈、お、おめでとう。体調最悪だったのに、合格するなんて凄いな」

「憧れのフローラ大学附属高校に合格できたのは、全部創ちゃんのおかげだよ」

 俺って、もしかして家庭教師の才能があるのかな?これは奇跡だよ。

「南!おめでとう!俺も合格したよ!」

「きゃあ、桐生君おめでとう!」

 礼奈は駆け寄った桐生と、飛び上がってハイタッチを交わし、歓喜の雄叫びを上げた。

 俺の顔面はピクピクとひきつる。

「あっ、お兄さんおはようございます。南、今から中学校に報告に行くだろ?」

「うん」

「一緒に行こう。担任に報告しないとな。先生も驚くよ。超難関校のフローラ大学附属高校にクラスから二人も合格したんだから」

「うん」

 礼奈が俺をチラッと見上げた。俺は口をへの字に曲げたままコクンと頷く。

 俺は一体いつまで、礼奈のお兄さんでいるわけ? 礼奈に変な噂がたってもいけないから、渋々兄を演じているが、れっきとした彼氏なんだよ。

「じゃあ、お兄さん失礼します。南、行こう」

「……うん。行ってきます」

 高校受験という、人生の大きなイベントをひとつ終えた二人は、ルンルンで最寄り駅に向かった。

 俺は校庭の隅に置いたバイクに跨がり、小さくなる二人の後ろ姿を見つめながら、嫉妬で発狂寸前だ。

 礼奈の合格は勿論嬉しい。
 家庭教師という大任を果たせたという達成感もある。

 ――が、しかし!
 俺の予想を越えた展開が、合格発表から数分後に生じてしまったわけで。

 俺の可愛い姫が、盗賊に奪われてしまったような、危機に直面しているわけで。

 これはなんとしても、阻止しなければいけない非常事態だ。

 いつまでも家庭教師をやってる場合じゃない。家庭教師なんて仮の姿はもう脱ぎ捨てて、俺は彼氏に復活するぞ。

 バイクのエンジンをブンブン吹かし、俺は自分自信を煽る。

 桐生に、俺の礼奈は渡さないからな。