「その自信、どこからくるんだよ。ダメだよ、まだ受験生なんだから」

「創ちゃんこそ、私がフローラ大学附属高校に落ちればいいと思ってるみたい」

「そ、そんなこと思ってないよ。あんなに勉強したんだ。それに面接試験の練習だって」

「パパにいっぱい注意されたのに、創ちゃんは、全然注意しなかったよね? どうしてかな?」

「……そうだっけ?」

 俺は桐生とは別の高校に進学して欲しいだけだ。桐生が不合格になればそれに越したことはないが、桐生はどうやら成績優秀でバスケの実力もあるらしい。だとしたら、礼奈よりも合格率は高い。

 だが、あいつは危険人物だ。

 俺はフローラ大学附属高校の受験を終え、浮かれている礼奈の手を掴み、二階の部屋に入りいつものように問題集を広げる。

「先生、本当に勉強するの? 本当に? 本当に? 私が『デートしよう』って、誘ってるのに?」

 礼奈は可愛い顔を俺に近付ける。
 プルンとした唇、誘惑の甘い罠。甘い蜜に誘われる蜜蜂のように、俺は礼奈の唇に吸い寄せられるが、数センチのところで思いとどまる。

「創ちゃん」

 ……っ、その手には乗らないよ。
 うっかり、甘い蜜に落ちるところだった。

「はいはい、もう終わり。『彼氏』から『家庭教師』にスイッチを切り替えました」

「えー……。つまんない。『家庭教師』から『彼氏』にスイッチON」

 礼奈が俺の唇を右手の人差し指で触った。

 あ、あ……。
 ONされちゃったよ。

「うー……。OFF。はい、勉強勉強」

 礼奈はもう一度、俺の唇に触れた。

「ON」

「ぐああっ、OFFだよ、OFF」

 なんだよ、この展開。
 俺達はバカップルか。

 ゼエゼエと息を切らし、姫の誘惑から逃れた俺は、やっと『家庭教師』に戻る。

「合格発表まで勉強します。でも、高校生になっても家庭教師はしてね。広兼先生」

 家庭教師と生徒の禁断の恋。
 礼奈の色っぽい眼差しにコーフンしてる俺は、変態かっ!?