【創side】

 夕方、礼奈の様子が気になり、俺は礼奈の家に立ち寄る。体調不良で惨敗し落ち込んでいるに違いない。

「礼奈、体調は大丈夫か?試験のことは気にするな。まだ公立もある」

 俺は落ち込んでいるはずの礼奈を励ます。

「集中力は若干鈍ってたけど、創ちゃんのシャーペンのお陰で頑張れた」

「そっか、体調悪いのによく頑張ったな。いい子、いい子。どんな結果が出ても落ち込まなくていいからな」

「落ち込まないよ。創ちゃん、頑張ったご褒美ちょうだい」

「ご褒美?それは合格してから」

「意地悪だな。ギュッてしてくれたら、高熱も吹き飛ぶ」

「ハグ? それくらいなら……。わかった」

 俺は礼奈の体を両手で抱きしめる。
 高熱のせいか、体は湯たんぽみたいに温かい。

「今日フローラ大学附属高校に行って驚いたんだ。保健室受験って、意外といるんだなって。インフルエンザの人が四人もいたの」

「今インフルエンザ流行ってるからな。みんなしんどかっただろうな」

「それでね、桐生君もインフルエンザだったんだよ」

「桐生?」

 桐生って、誰だっけ?

「ほら、原宿で会ったでしょう」

「あの桐生かっ!? あいつがフローラ大学附属高校を受験したのか? マジかよ、何で受験するんだよ。もしかして、礼奈の志望校だから受験したのか? そうだよ、そうに決まってる」

「どうしてそうなるかな。フローラ大学附属高校は文武両道、バスケの強豪校でもあるんだよ」

「あいつがフローラ大学附属高校に進学するなら、礼奈は公立にするべきだ」

「は? 意味わかんない。礼奈の第一志望はフローラ大学附属高校だからね。変なこと言わないで。それより、創ちゃん面接の練習して。創ちゃんが面接官ね」

 礼奈は俺と向かい合って座る。

「俺が面接官? いいよ。じゃあ始めるよ。南さん、桐生君をどう思ってますか?」

「それ、受験に関係ないし」

 礼奈は口を尖らせ俺を見上げた。
 俺は礼奈の額にチューッとキスをする。

「ご褒美くれたの?」

 ご褒美?
 これは単なるヤキモチです。

 礼奈の脳内から桐生を吸い出し抹殺するためのチューチュー必殺技だ。

「うふふ、礼奈、明日頑張っちゃう」

 ヤバい。フローラ大学附属高校より公立高校に進学して欲しいのに。

 桐生を吸い出すどころか、愛のパワーを注入してしまったようだ。

「我が校を受験した志望理由は?」

「はい、都内の制服人気ランキングで堂々一位の可愛い制服と、自由でゆるゆるな校風に憧れて志望しました」

 なんとお粗末な志望理由だ。
 礼奈がここまでおバカキャラだったとは。
 だが、これでヨシとしよう。

 なんとしても、桐生と同じ高校になることだけは阻止するのだ。これで不合格になったとしても致し方ない。

「サイコーの志望理由だ」

「やったぁ!」

 ……そんな、わけない。