俺に抱き着いていた礼奈の手を解いた。礼奈は不満そうに俺を見つめている。

「創ちゃん、どうしたの?」

「ほらっ、映画を観に行こう。家にいるとなんか、息苦しいんだよ。登山したみたいに、酸欠になりそうだ」

「酸欠? 窓を開けようか? 映画なんてつまんないよ。それにさっき来たばっかりだよ。創ちゃんの部屋がいい」

 コイツ、どこまで俺を惑わす気なんだ。

「ほら、行くよ。映画が嫌なら留守番するのか?」

「それはもっとやだぁ」

 俺は礼奈の手をとる。
 小さくて白くて、可愛い手。

 女の子の手って、どうしてこんなに柔らかいのかな。手だけじゃない。体がマシュマロみたいだ。

「い、行こうか」

 礼奈は部屋の隅に置いていた赤いバッグを掴んだ。

 ここは俺の家。礼奈に『創ちゃんちに行きたい』と言われて、部屋に通したけど。

 やっぱり家はマズかったな。
 妙な気分になってしまうから。

 俺と礼奈は去年の夏休みから付き合い始めて、一年が経過した。

 敏樹の家へ遊びにいくたびに、『可愛いな』とは思っていたけど、それは異性としてではなく、妹みたいな存在に過ぎなかった。

 礼奈はまだ十三歳の中学一年生だったし。礼奈みたいな可愛い妹が欲しいと思っていただけなんだ。

 そんな関係に変化が起きたのは、去年の夏休みだった。庭の柿の木にとまっているセミの鳴き声を聞きながら、三人で敏樹の部屋で寛いでいた時だった。

 敏樹が一階に降りた隙に、礼奈からストレートに『創ちゃんが好きです。私と付き合って下さい』って、告白された。

 妹みたいに可愛いと思っていた礼奈に、突然告白されて正直困惑した。でもポッと頬を赤らめて、告白する姿が可愛くて、つい『いいよ』と応えた。

 その直後、部屋のドアが開いて、雰囲気を察した敏樹に、『俺の妹に手を出すんじゃねぇっ!!』って、ぶん殴られた。

 俺はまだ手も足も出してないっつーの!

 何もしてないし、手すら繋いでない。

 告白されて僅か数分だ。これで何かしていたら、俺は中学生に手を出した犯罪者になってるよ。

 敏樹は礼奈を部屋から追い出すと、俺に強制的に約束させた。約束といえば聞こえはいいが、明らかに脅しだ。

『いいな、礼奈が大人になるまで、手を出すなよ!』

 鬼瓦とあだ名がつくほどの厳つい顔をした敏樹が、この世の者とは思えない恐い形相で俺を睨んだ。