「広兼先生、宜しくお願いします」

「礼奈、先生だなんてよせよ」

「創ちゃん、毎日来てね」

「毎日はちょっと難しいかも。バイトもあるしな」

「先生、礼奈は本気で勉強したいの。ダメかな?」

 上目遣いで俺を見上げる礼奈。
 『本気で勉強したい』って、本当なのかな?

 ちょっと嘘っぽい気がする。

「礼奈、毎日は創ちゃんに悪いわよ。週に二、三日頼めるかしら?」

「はい、わかりました。バイトは週三なので、そのくらいなら都合がつくと思います」

「じゃあ宜しくお願いしますね。礼奈しっかり勉強するのよ」

「はーい、ママ。真剣に勉強するから、部屋には絶対に入って来ないでね。覗き見もダメよ」

 上機嫌で返事をした礼奈。
 今のセリフ、深い意味ないよな?

 俺は家庭教師なんて未経験だし。しかも大学生になったばかり。この俺が本当に勉強を教えることが出来るのか不安だ。しかも生徒は、このお姫様なんだから。

 俺達は礼奈の部屋に入る。部屋に入るなり、礼奈は俺にムギュって抱き着いた。

「こらこら、俺は抱き枕じゃないんだよ。礼奈は受験生なんだから。ちゃんと受験勉強しないと。どうして進学塾に行かないんだよ? 俺に勉強を教わるよりも効率的だし、志望校の合格率も上がるのに」

「進学塾で他校の男子と仲良くなってもいいの?」

 そ、それは困る。

「みんな勉強するために通ってるんだ。塾でナンパする男子はいないよ」

「そうかな。もしも塾の先生が超イケメンだったらどうする?」

 そ、それも困る。
 礼奈に近寄る男は、中学校の先生だってNGだ。

「だったらプロの家庭教師にするとか」

「プロの家庭教師と二人きりで勉強してもいいの? 誘惑されちゃうかも」

 ……っ、俺を脅してるのか?
 女性の家庭教師を雇えばいいだろう。

「だからね、私は創ちゃんがいいの。創ちゃんじゃないと、勉強する意欲がわかないの。ねっ先生、宜しくお願いします」

 先生だなんて。先生だなんて。
 その呼び方、ちょっと萌えだな。
 正直、かなり萌えだ。

「今度さ、書店で問題集を何冊か買ってくるよ」

「うん、ママに問題集のお金は貰ってね」

「そんなことしていいのかな?」

「だって創ちゃんは、家庭教師だもん。必要経費は請求しないとね。家庭教師の月謝ももらえばいいのに。そしたら週末にいっぱいデートできるし」

 なるほど。いっぱいデートか。
 いやいや、それはちょっと違うだろ。

 でも教材費くらいは、貰ってもいいかも。

「今日からする? ねぇ、創ちゃん、今すぐする? ねぇ、しようよ」

 『今すぐする』とか『しようよ』なんて言葉を、礼奈が言うと誘惑されてるようにしか聞こえない自分が怖い。

「うん、やろうか。見せて」

「やだぁ、創ちゃん本当にやるの? じゃあちょっとだけだよ。今、見せてあげる」

 バンッてドアが開き、鬼の形相をした敏樹登場だ。

「さっきから、『やる』とか『する』とか『見せて』とか、お前らエロいんだよ! 創! お前ぶっ飛ばすぞ!」