―翌年―

 この春、高校を卒業した俺は推薦入試で法凛大学に入学した。

 礼奈は中学三年生に進級したが、俺が大学生になったことで、ますます年齢差が開いた気がする。

「お前、健全な女子中学生を相手に犯罪を犯すなよ」

「犯罪なんか、犯してないし」

 大学構内で友達にからかわれる毎日。その背後には鬼瓦敏樹の影がちらつく。

 礼奈と交際していること自体を『悪』とする、シスコン敏樹の差し金に決まっている。

 俺に精神的なダメージを植え付け、二人の交際の邪魔をしているつもりだろうが、俺は逆境には強いんだよ。

 俺達が交際していることは双方の両親も知っていて、親公認の仲だ。

 当然のように互いの家を行き来していたが、『礼奈は創の家に行ってはならん』と、敏樹の一方的な命令により、礼奈は渋々従っている。

 でも俺も、本音を言えばその方がいい。

 俺の部屋だと、俺が俺でなくなってしまう恐れがあるからだ。俺の中に潜む欲望が、巨大化する可能性が否定できない。

 俺の姫は中学三年生になり、ますます可愛くなった。そして前よりも小悪魔度は増した気がする。

 ある日、いつものように礼奈の家に遊びに行くと、おばさんに呼び止められた。

「創ちゃん。礼奈の家庭教師を頼めないかしら?」

「家庭教師ですか?」

 俺は階段で足を止める。
 礼奈がニヤッと笑った。

 この顔は、何か企んでいる顔だ。
 ははん、首謀者は礼奈だな。

「中三なのに、進学塾には行かないっていうし、敏樹に勉強を教えてもらうのは死んでも嫌だっていうし。創ちゃんが家庭教師をしてくれるなら受験勉強するっていうのよ。家庭教師の月謝は払うから頼めないかしら?」

 礼奈と一緒にいられるなら、断る理由なんてない。

「俺は素人だから、家庭教師の月謝なんていりません。礼奈の高校受験が終わるまで、俺でよければ協力しますよ」

「ほんと? 助かるわ。ありがとう」

 敏樹そっくりだけど、おばさんの笑顔は愛嬌があり、気さくな人柄だ。イケメンのおじさんが、おばさんと結婚した理由もなんとなく理解できる。

 家庭教師を引き受けた俺は、礼奈の家に堂々と来る口実ができ、ニカッと笑う。

 当然礼奈もご満悦だ。
 その笑みが、ちょっと……怖い。