「創、わかってんだろーな!」

「はいはい、手は出しません。足も出しません。俺は運転席に座り朝まで起きてます」

「それでいい。朝まで一緒にトランプでもしてろ」

 自分達はイチャイチャするくせに、俺はトランプかよ。

 そもそも、男女が二人きりで夜を過ごすのに、手も足も出さないなんて不可能じゃね?

 俺はダルマじゃないんだからな。

 カップル同士で一夜を過ごすつもりなら、初めからテントを三つ持って来い。

「礼奈、行こうぜ」

 憤慨した俺は、礼奈の手を取り駐車場に向かった。

 車のドアを開け、後部座席のシートを倒し、フラットにする。

「まったく、計画的犯行だよな。キャンプなのに、どうして俺達だけ車なんだよ」

 俺の不満は止まらない。
 キスもさせてもらえないんだ。蓄積した不満も爆発するさ。

「うふふっ」

 怒り心頭の俺とは対照的に、礼奈はニコニコしている。

「礼奈、なんだか嬉しそうだな。敏樹に腹が立たないのか?」

「だって、今夜は創ちゃんと二人きりだよ」

 こ、今夜は……二人きり。

「そうだよな……」

 そうだよ。
 礼奈と二人きりだ。

 敏樹は美貴ちゃんに夢中。
 良も妃乃ちゃんに夢中。

 誰も車には近付かないし、監視カメラが設置されているわけでもない。

 車は密室と化す。
 即ち、お、俺達は二人きり!!

 それって……かなりヤバくない?

 俺達は後部座席に乗り込みドアを閉めた。
 窓を締め切ると暑いため、サンルーフを開ける。

 二人で寝転がると寝心地はサイコーだ。
 サンルーフからは、星空が見えた。

 暗闇に光る星……。
 BGMは波の音。

 めちゃめちゃロマンチック……。

「あ、あのさ。トランプしよう」

「トランプ? ここで? いいけど……。お兄ちゃんに言われて、一応持ってきたから」

 敏樹のやつめ。
 最初から、俺達を車に閉じ込めるつもりだったんだ。

 計画的犯行だなんて、許せないな。

「ババ抜きする? それとも神経衰弱?」

「本当にトランプするの? つまんないよぅ」

「……だよな」

「それより……腕枕して」

「う、う、腕枕……」

 男ならば一度は憧れる、好きな女の子と腕枕。

「俺の腕、ゴツゴツしてるから寝心地悪いかも」

「創ちゃんの腕枕。一度してもらいたかったの」

「こんな腕でよかったら、どうぞ」

 俺はシートに寝転んで腕を差し出した。礼奈は俺の腕に頭を乗せた。

 柔らかな髪の毛が腕にあたり、ちょっとくすぐったい。礼奈の重みが心地よく感じられ、二人の距離がますます縮まった。