【創side】

 翌日、登校日だった俺は、瞼を腫らし顔に青痣をつくったまま高校に行く。

 俺の悲惨な顔を見て、クラスの友達は大騒ぎしている。

「どーしたんだよ創! 誰にやられた! 何処の高校だ!」

「許せねぇな、みんなで仕返しに行こうぜ!」

「おう! 取っ捕まえて全員ボコボコにしてやる!」

 クラスメイトが俺の無惨な顔を見て、勝手に盛り上がっている。今にも集団で学校を飛び出しそうな勢いだ。

「みんな落ちつけよ。俺をこんな顔にした奴はコイツだ!」

 俺は隣に座っている敏樹の顔を、思いっきり指差した。

 みんなは俺の味方だ。
 みんなが俺の仕返しをしてくれる。
 俺は手を出せないが、みんなが敏樹をボコボコにしてくれるはずだ。

「ええー……まじで!? 鬼瓦の仕業かよっ!」

 クラスメイトが一斉に声を張り上げ、敏樹に視線が集中した。

「ひでぇなぁ敏樹。イケメンの創をボコボコにしたのか? ここまでやる必要あんのか? 創、お前何をやったんだよ?まさか、敏樹の彼女に手を出したのか? そうなんだろう。それならこの仕打ちも十分あり得るな。自業自得だ」

「あほ、敏樹の彼女に手は出さねぇよ。俺は、俺の彼女をハグしただけ」

「はぁ? 意味わかんねぇ? なんで自分の彼女にハグして、敏樹が創を殴るんだよ? まさか敏樹が創の女に惚れたのか!? うわ、親友同士で三角関係? いや、四角関係? ひし形? 楕円形?」

 類は友を呼ぶというが、アホばっかりだ。

「ちげぇよ。俺の彼女は敏樹の妹なんだよ」

「ひゃあー! 最悪じゃん! 敏樹の妹って、敏樹にそっくりなんだろ?敏樹に付き合えって脅されたのか?」

「アハハハッ! 敏樹の女装バージョンかよ。この世のものとは思えねーよ。創、お前よく付き合えるな」

 どいつもこいつも、好き勝手なことをほざきやがって。礼奈のどこが、敏樹そっくりなんだよ。似ているのは足の裏くらいだ。

「敏樹に似てねぇーよ!」

「俺に似てねぇーよ!!」

 俺達の声が仲良くハモッた。
 
 俺と敏樹は顔を見合わせる。
 喧嘩をしていた俺達だが、敏樹の女装を想像し、思わず吹き出す。

「ぷっ……」

「創、笑うな!」

「礼奈がお前に似ていたら、俺は付き合ってないし。お前と同じ顔だなんて、想像しただけでおぞましい」

「創、それは言い過ぎだぞ。……つうか、昨日は俺が悪かったよ。ちょっとやり過ぎた」

「はっ? お前が俺に謝るのか? 天と地が引っくり返るぞ。地球滅亡だ」

 敏樹が人に謝るとこなんて、今まで一度も見たことがない。

「実はさ、昨日礼奈に大泣きされて、『もうお兄ちゃんなんか大嫌い』って言われたんだよ。俺、まじでショック。絶交だってよ。顔も合わせないし、口も聞いてくれないんだぜ」

「……へっ?礼奈が……大泣き?」