――と、その時……。

 バンッ!! と、大きな音がし、勢いよく礼奈の部屋のドアが開いた。

 礼奈を抱き締めている俺の視界に映るのは、鬼のような形相をした敏樹だ……!

 うわわわ、わ、わ、わあ!

 俺は礼奈とハグしてる最中だ。

 敏樹は床が抜けそうなくらいドスドスと足音を鳴らした。鬼の形相で俺達に近付き、無理矢理礼奈を引き離し、俺の胸ぐらを掴んだ。

 怪力に持ち上げられ、俺の尻は床から浮いた。

 ――ボンッ!!
 鈍い音と共に、敏樹の拳が俺の頬に食い込んだ。

 くらっ
 くらっ
 天井が回っている。

 次の瞬間、俺の体は後ろに吹っ飛んだ。

 礼奈の部屋の壁に、後頭部を思いっきりぶつけ、震度2くらいの揺れを体感し、思わず白目を剥く。

「創ちゃん!」

「……ぐえええ。な、なんで、殴るんだよう」

 敏樹はドスドスと俺に近付くと、さらに俺の胸倉を掴んだ。

 力尽きた俺は、壊れた人形のように敏樹に持ち上げられた。

 コイツは本気だ。
 俺を殺す気だ。

 ひえぇ……。
 まだ死にたくない。

 礼奈とキスもしてないのに。
 まだ死にたくないよう。

「創! 礼奈に手を出すなって言ったはずだ。お前、礼奈を無理矢理抱き締めただろ」

「……っ……これは不可抗力だよ。無理矢理抱き締めてないってば」

「はぁー? 意味わかんねぇこと言うなっ! 何が不可抗力だ! 可哀想に、礼奈が泣いて嫌がってるだろ!」

 どこが嫌がってるんだよ。
 あれは『噓泣き』攻撃なんだよ。
 
 敏樹のパンチのせいで、俺の唇から血が滲む。敏樹が再び拳を振り上げた。

 万事休すだ。
 この一発で、俺の命はない。

「お兄ちゃん! やめてよっ!」

 俺の救世主。
 お姫様の登場だ。
 ていうか、遅い。
 もっと早く助けてくれよ。

「創ちゃん、大丈夫? お兄ちゃん、酷い! 創ちゃんが怪我をしたじゃない!」

「どけっ! 礼奈、コイツは俺との約束を破ったんだ」

「約束? あんなのくだらない!」

 『イーッ』て、子猿みたいに歯を剥き出し、礼奈が敏樹を睨み付けた。