礼奈につられてデレーッと伸びる鼻の下を、必死で引き寄せる。

「創ちゃん、バレバレだよ。やっぱり何かいいことがあったみたいだね。可愛いなぁ」

 妃乃ちゃんは何発も爆弾を投下し、俺は炎上している。

「創、お前わざとばっくれたのか?」

「ア、アホか、俺達は昨日の夜、水しか飲んでないんだぞ。何も食わずに一晩過ごしたんだ。ばっくれるなら食料を持って消えるだろ」

「な、に、も、食わずに? またまたぁ、礼奈ちゃんを美味しく召し上がったくせに」

 妃乃ちゃんが大砲をぶっ放す。
 お、お、俺は熊じゃない。

 美味しく召し上がったとは、何ごとだ。
 確かに、礼奈をギュッとハグしたら蜂蜜みたいに甘い匂いがしたけど、むしゃぶりついたわけじゃない。

「ど、どこにそんな証拠があるんだよ。俺達はピュアな関係なんだから」

「妃乃、いい加減にしろよな。敏樹が怒りでメラメラ燃えてるだろ。敏樹が炭になる前に止めとけ」

 良介にたしなめられ、妃乃ちゃんは「エヘッ」と笑った。すでに敏樹の怒りはピークに達し、ボーボーと音を立てて燃えている。

「敏樹、俺達は危機的な状況だったんだ。ロマンチックな夜は過ごしてない。なっ、なっ、礼奈」

「うん、星も月もすっごく綺麗で幻想的で、この世界に私達二人しかいないみたいに、幸せでとろけるような夜だったけど。ぜーんぜんロマンチックじゃないよ、うふふ、お兄ちゃん」

 おい、おい、礼奈。
 それでは、妃乃ちゃんの言葉を肯定してるようにしか聞こえないよ。

「幸せでとろけるような夜だと!?」

「だって、もう高校生だし。十六歳は結婚だってできるんだよ。だから、もうオトナなんだよ」

 うわ、わ、礼奈。
 それは誤解を招くだろう。

 俺達はハグをしただけで、一線は越えてない。恋の垣根は、まだ越えてないんだから。

「と、敏樹、落ち着け。誤解だ、俺達は遭難したんだ。超幸せだったけど、不幸だったんだから」