「もっと……創ちゃんのことを好きにさせて」

 夜空の下でキスをしたいと思っているのは私だけですか?

 そんな不安を和らげるように、創ちゃんはあの夏の日のように、私を腕枕して抱き締めてくれた。

 冷たい木の床なのに夜空の星の絨毯の上で、抱き合っているみたいに体はふわふわしてる。

 大好きな気持ちは気球みたいにどんどん上昇し、幸せな夜は更けた。

 ◇

 翌朝、朝日が山小屋の中を照らした。

「礼奈、おはよう」

「……おはよう。創ちゃん」

 創ちゃんの腕の中で目を覚ました私。
 昨夜創ちゃんに抱き締められて眠った世界一幸せな朝。

「創ー! 礼奈ー! おーい! 生きているなら返事をしろー!」

 私達の名前を呼ぶお兄ちゃんの声に、顔を見合わせた。

「助けがキター!」

「鬼がキター!」

 私達は手を繋ぎ、山小屋を飛び出した。

「助けてー! 俺達はここだー!」

「は? 助けて? 朝まで帰らねぇと思ったら、そんなとこにいたのか」

「そんなとこ? 俺達は昨日の夜遭難したんだぞ。全部、お前のせいだ。俺達を命の危機に貶めてそんな言い方はないだろ!」

「はあ? 遭難? どこがだよ? よーく周囲を見てみろ」

 私達は周囲を見渡す。
 山小屋と思っていたのは、建築途中のバンガローだった。

 バンガローの前方に茂る林。斜面を登ると前方にキャンプ場が見えた。

 私達はこんな近距離で、道に迷ったんだ。