「創ちゃんも、寝転んで」

「俺も?」

「早く、早く」

 礼奈にトントンと床を叩かれ、俺も寝転がる。木の床はひんやりとして心地いい。

 立って眺める星空と寝転んで眺める星空は、礼奈の言う通り違う景色に見えた。広大な夜空は、無限に広がる壮大な宇宙を感じさせる。

 礼奈がコロンと寝返りを打ち、俺の胸に顔を埋めた。

「創ちゃん、大好き」

 俺の防波堤を、礼奈は軽々と乗り越えた。
 津波のように押し寄せる感情。

 俺……我慢出来ねぇよ。

『我慢しなくてもよくね?』出たな、久々の登場、欲望め。そんな誘惑には負けないよ。

 俺達は現在危機的な状況に陥っている。
 山の中で遭難しているわけで食料もない。このまま発見されなければ、サバイバルどころか命すら危ない。

 でも……。
 俺の姫はそんなことなんてお構い無しに、悩ましい眼差しを向ける。

 ゴクン……。

 や、やけに喉が渇く。
 真夏の夜は、酷暑だ。

「礼奈、水持ってたよね」

「うん、あるよ。飲む?」

 礼奈がポケットから、小さなペットボトルを取り出した。礼奈の体温で生ぬるくなっているが、貴重な水だ。

「明日、俺達発見されるかな?」

「発見されるよ。創ちゃんは心配性なんだから。礼奈はずっと山小屋でもいいよ。創ちゃんと二人ならどこでも生きていけるもん」

「食料もないのに、どうやって暮らすんだよ」

 非現実的な礼奈と、現実的な俺。
 いつの間にか、俺はつまんない大人になってしまったのかも。

 ペットボトルの水を一口含み、渇いた喉を潤した。