俺が面白いって、なんなんだよ。
 ふつうは女子が「キャアキャア」叫んで怯えるものだ。

 幽霊とか魔物とか、怖くないのかな。
 俺は腰を抜かしそうなくらいビビッてるのに。

「礼奈、早く枝を拾って帰ろうぜ」

「うん、一本……二本……」

 礼奈はわざと声のトーンを落とし、不気味な喋り方をする。まるで幽霊みたいだ。

「だからぁ、よせってば。怒らせたいのか」

「怒るなら、先に帰るよ。バイバイ創ちゃん」

「うわ、わ、わ。懐中電灯はひとつしかないんだよ。林の中で俺を見捨てる気か!? 魔物に喰われたらどうするんだよ」

 俺は生き延びるために必死だ。

「うふふ、冗談だよ。ねぇ創ちゃん、夜空を見て。今日は満月だね。月が綺麗」

 礼奈に言われ、夜空を見上げた。
 空にはぽっかりと月が浮かんでいる。
 
「本当だ」

「東京より星も綺麗だね」

「うん。めちゃめちゃ綺麗」

 夜空を見上げているとロマンチックな雰囲気になり、礼奈をそっと引き寄せる。

「あれ? 礼奈? 俺達どっちから来た?」

「あっちだよ」

「違うだろ? こっちだよ」

 俺達は互いに違う方向を指差す。
 バサバサと羽音がし、俺達は思わず悲鳴を上げて抱き合う。

 木の枝を拾っているうちに林の奥に迷い込んでしまった俺達。周囲は高木に囲まれ、もはや自分達がどっちの方角から歩いて来たのかすらわからない。

「創ちゃん、取り敢えず歩こう」

「バカ。山で道に迷ったら動かない方がいいんだよ。体力を失わないようにじっとしていれば、必ず助けがくる」

「創ちゃん、大丈夫だよ。あっちだってば」

 礼奈は俺の忠告も聞かずズンズン突き進む。 俺達は完全に方向感覚を失ってしまった。

「きゃあっ……」

 礼奈が斜面で足を滑らせ、転がり落ちた。
 俺は顔面蒼白となり、大声で叫んだ。

「礼奈ー、礼奈ー、大丈夫かー!」

「創ちゃん、大丈夫だよ。斜面をゆっくり降りて来て、山小屋があるよ」

「山小屋?」

 俺は礼奈のあとを追い斜面を滑り降りた。
 礼奈の言った通り、数メートル先に山小屋があった。

 山小屋の中に足を踏み入ると、屋根は半分しかない。

「薄気味悪いな。廃屋か……?」

「そんなことないよ。山小屋から月が見えるし、星も見えるし、素敵だね。創ちゃん、山で迷ったら動かない方がいいんでしょう。今夜はここに泊まろう」

「ここに? マ、マジで?」

「だって携帯電話はテントに置いてきたし、ここに泊まるしかないよ。明日の朝になったら、きっとお兄ちゃんが捜しに来てくれる」