「一度キスしたら、俺はもう止まれない。デートするたびに、礼奈にキスしたくなるし、それ以上のことだってやりかねない」

「……創ちゃん」

「俺が礼奈とデートするたびに、そんなことばかり要求してもいいのか?」

 俺を誘惑し困らせる礼奈を、逆に脅して困らせる。

 やっぱり中学生だよ。
 ちょっと過激な発言をすると、もじもじと恥ずかしそうに俯いた。

「なっ、礼奈も困るだろう。だから俺は、ずっと我慢してるんだよ。敏樹と約束したからじゃない。俺が礼奈のことを大切に思っているから。礼奈が大人になるまで、ピュアな恋愛を貫きたいんだ」

 礼奈の頭をポンッて、優しく叩く。
 これで俺の気持ちが、礼奈に伝わったはずだ。

 礼奈は俯いたまま、もじもじと右足を動かす。

「……もう大人だもん」

 は?

 礼奈がぷぅーっと河豚みたいに頬を膨らませて、俺を見上げた。俺の想いが全然通じていないようだ。

 それとも日本語が通じない宇宙人か。

「つうか、大人はそんな顔しないよ」

 礼奈は俺に抱き着き胸に顔を埋めると、小さな声で呟いた。

「……創ちゃん」

「なに?」

「キスってどんな味がするのかな? 私に教えて」

 ド、ド、ド、ド、ドキュン!!

 心臓をマシンガンで撃ち抜かれたみたいに、体に空いた無数の穴からピンクの妄想が溢れ出す。

「キ、キスか?そうだな。礼奈の可愛い声みたいに、甘ったるい味かな」

 礼奈が俺の胸に埋めていた顔を、ふっと上げた。

 俺の顔を下から覗き込む。ちょっと潤んだ瞳。花びらのように可愛い唇。

 ――反則だよ、反則。

 その顔、可愛いすぎだろ。
 
 思わずレッドカードを上げたくなる。

 ダメだぁ―……。

 ガマンの限界だよ。

 俺、一年も我慢したんだよ。
 これは強要ではない。
 両想いの男女が、合意の上での愛情表現なんだ。

 もういいかい?
 もういいよ。

「……礼奈」

 目の前で瞼を閉じた礼奈。

 ゴクンと息を飲み唇を近づけたが、クソ真面目な理性が脳内で俺を叱咤する。

『いいのか?創。お前の決意はその程度なのか?礼奈は中学生なんだぞ。これは犯罪だ』

 は、犯罪!?

 俺は犯罪者にはなりたくない。
 それに礼奈を想う気持ちは本物だ。

 礼奈……。
 ごめん。

 俺は指先で礼奈の唇にチョンと触れる。
 指先を離すと礼奈が俺にこう言ったんだ。

「……創ちゃ……ん、味……しないよ」

 お、お姫様、まだ俺を誘惑しますか。