一橋先輩はギュッと私の手を握った。
 突然のことに、私はテンパッている。

「うわ、わ、わあ」

「優等生もたまには反乱を起こすんだよ。彼氏がいても、気分が昂揚して暴走する時もある」

「うわ、わわわわわ」

「南は彼氏がいるのにピュアで無防備だよね。人を疑ったりしない」

「一橋先輩、手、手……」

 私は鶏みたいにバタバタと手を振るが、一橋先輩は私の手をギュッと握ったまま離さない。

「南の家まで手を繋ぎたい。これで最後にするから」

「最後……?」

「恋をするのは自由だと思っていたけど。実際に彼氏を見てしまうと気持ちは萎える。俺は南に失恋したんだなって、認めないといけないよね。山梨や桐生みたいにさ」

「一橋先輩……」

「その角を曲がると、南んちだよね」

「私の家に来たことがあるんですね。それはいつ……」

「前に一度だけ。直接渡す勇気がなくて、門に設置してあるポストに投函した」

 直接渡せなくて?
 ポストに……投函?

「ま、まさか!? あの手紙の差出人は……一橋先輩!?」

 あの手紙は桐生君が書いたものだと思っていた。桐生君は否定していたけど、その後、百合野と付き合い始めて、それ以上問い質すことはできなかった。