――渋谷、カラオケ『ハニー』

「カンパーイ!」

 生徒会の執行部たちと、私はグラスを合わせる。勿論、グラスの中身はジュースやコーラだ。

「南さん、本当にありがとう。君のお陰で体育祭も大成功に終わった。あの巨大パネル、卒業アルバムにも載せることになったんだ」

「うわっ、本当ですか? 光栄です。ありがとうございます」

「来期の生徒会役員に推薦するから、是非立候補してよ。来期の生徒会長は一橋を大々的に推薦するつもりだからさ」

「いえ、私は裏方が向いているので、忙しい時だけのボランティアで。表舞台は苦手だから」

 私は生徒会長の推薦をあっさり断る。

「一橋、お前がもっと推さなきゃ。南さんは生徒会に必要な人だと思うけどな」

 一橋先輩は生徒会長の言葉に、優しい笑みを浮かべた。

「生徒会長、無理強いはダメですよ。俺は南の性格を十分わかっているし。ボランティアでもいいから、時々手伝ってくれたら嬉しいと思っている。二学期は文化祭もあるし、南にはまたポスターやプログラムのデザインを考えて欲しい」

「はい、喜んでお手伝いします」

 一橋先輩の言葉に「ピュウ~」と誰かが口笛を吹いた。それを合図にみんなが拍手をしてくれた。

「よし、今日は盛り上がっていこう! まずは俺から歌います!」

 生徒会長はマイクを握りノリノリで歌った。ちょっと音程が外れているけど、それも愛嬌があって楽しい。

 みんなが盛り上がってる最中に、一橋先輩が私の耳元で囁いた。

「南、本当にありがとう」

「いえ、私こそ楽しかったです」

「今日、体育祭に家族が来てたね」

「はい」

「南はお兄さんが二人いたっけ?」

「えっと……、一人はお兄ちゃんの親友で、私が交際している人です」

「えぇー……。南の……彼氏? 彼氏が体育祭に来てたんだ。そうか……彼氏の存在を目の当たりにすると、さすがにショックだな」

「一橋先輩……?」

「南、よかったら俺と一緒に歌ってよ。俺、カラオケ苦手なんだ。微妙に音程がズレる。生徒会長よりはマシだけどね」

「うふふ、確かに会長は怪獣みたいですね。でもみんな盛り上がってるし、楽しい」

「だよね」