桐生君の手から、ハラリと封筒が落ちた。

「桐生君、バスケ部の朝練に行くんでしょう?私もサッカー部に行くの。一緒に行こう!早く、早く!」

「……あっ……はい」

 百合野に腕を掴まれ、後ろを振り向いた桐生君は、今までに見たこともないくらい情けない顔で、今にも泣きそうだった。

 百合野はドヤ顔で私を見て、桐生君の腕をグイッと掴んだまま強制連行する。

 狼も意外と純情なんだね。
 こんな恋の始まりもアリかも。

 私は本物の恋のキューピッドになった気分だ。

 床に落ちた封筒を拾い、学生鞄に突っ込んだ。この手紙の差出人は桐生君だったのか、ハッキリとした返答を得られず、複雑な気持ちのまま生徒会室に向かった。

「おはようございます」

「おはよう、南」

 一橋先輩や執行部のみんなは朝から爽やかな笑顔。

「今日は天気がいいし、屋上で色を塗ろうと思ってるんだ。その方が早く乾くし、先生の許可は貰ってるから」

 みんなでパネルを屋上に運び、ペンキで色を塗ることになり、屋上にブルーシートを敷き、パネルを並べた。

「パーツの色、間違えないでくれよ。南のデッサンを確認しながら作業すること。チャイムが鳴る前に一旦終了して、続きは放課後にするから」

「はい」

 屋上に立つと、心地よい風が吹き抜ける。グラウンドで部活をしている生徒が小さく見えた。

 サッカー部の中に紅一点の百合野。新人マネージャーだけど、頑張ってるね。

 私も頑張ろう。

 ◇

 その日、桐生君は一日中元気がなかった。
 桐生君とは対照的に、百合野は一日中ハイテンションだった。

 休憩時間、百合野の指にはあのピンク色のストーンがついたシルバーのリングが光っていた。

「先生に見つかったら没収されるから、休憩時間だけつけてるの。素敵なリングだよね。桐生君、センスいいね。ふつう友達にリングなんて贈らないよね? これって深い意味があるのかな?」

 百合野は上機嫌で、リングを見つめている。
 今さら本当の事は言えず、私は貝のように口を閉ざす。

「礼奈、感謝しなよ」

「えっ?」

「本当はね、教室に入ってすぐにピンときたんだ。礼奈、桐生君に告白されて困ってたんでしょう」

「百合野……」