【創side】

「バカヤロー!」

 敏樹にガツンと拳骨され、礼奈は脹れっ面をしている。

「たまたま俺達が原宿をぶらついていたから良かったようなものの、俺達が行かなかったら、お前は今頃あの狼の餌食だ!骨の髄までむしゃぶりつかれてたんだぞ」

「そんなことないし。もう帰ろうと思ってたし」

「密室で男と二人きりになる意味を、お前はわかってねーな」

「二人きりだからって、何かあるとは限らないでしょう。創ちゃんと礼奈は何もしてないし」

 それは何もしない俺に文句を言ってるのか?俺はしたくても出来ないんだよ。このシスコン敏樹が目を光らせているからな。

「敏樹、お前、美貴ちゃんと今からデートだろ」

「あっ、いけね。もうそんな時間か。行かなきゃ」

 敏樹は礼奈にもう一発拳骨を浴びせ、足早に立ち去った。礼奈はさらにむくれている。

 俺は礼奈に視線を向けた。

「礼奈」

「創ちゃん、ごめんなさい」

「謝るってことは、自分の軽はずみな行動がわかってるんだよな」

「お兄ちゃんには反抗したけど、本当は凄く反省してる。それに……今日の桐生君はちょっと怖かった」

 礼奈は俺の腕にギュッと抱き着いた。
 心なしか若干震えている。

「俺達が駆け付けなかったら、本当に危機一髪だったんだよ」

「本当にごめんなさい」

「わかってるならいい。家まで送るから」

「うん」

 俺は礼奈に手を差し出し、ガッチリと手を握る。二人で電車に揺られ、礼奈の家まで送り届けた。

「お帰りなさい。礼奈、随分遅かったのね。遅くなる時はちゃんと連絡しなさい。心配するでしょう。あら、創ちゃんと一緒だったの? 夕飯まだでしょう? 創ちゃんも上がりなさい。一緒に夕飯どう?」

「はい、ありがとうございます。でも俺は今からバイトがあるから」

「バイト? まあ大変ね。創ちゃんには礼奈の家庭教師も引き続きお願いしたいのよ。高校生になって、気分が浮わついてて困ってるの」

 確かに、その通りだ。
 花のJKになり完全に浮かれている。

 羽が生えたみたいに、あちらこちらを自由に飛び回り俺も気が気じゃない。

「創ちゃん、ビデオ店でバイトなの?」

「うん。どうしても買いたい物があって、貯金してるんだ」

「貯金してるの? 凄いね」