「ありがとう。でもこれは……貰えない」

「どうして? 南にきっと似合うと思うんだ」

「貰えない。だって創ちゃんに……」

「俺からプレゼントを貰うと、彼氏に叱られるから?」

 桐生君は私の髪に触れ、唇を近付けた。

「いい匂い。シャンプーの甘い香りがする」

「うわっ、桐生君。私……もう帰る」

「俺がまだ帰さないって、言ったら?」

 桐生君の目が笑ってなくて、少し怖かった。

「彼氏がいるのに、山梨先輩の次は一橋先輩。南は色んな男に隙を見せ過ぎだよ」

「……それは……みんな友達だから」

「友達? 先輩は南のことが好きなんだよ。好意があるから近付いてるんだ。俺もその一人だからよくわかる」

 少しずつにじり寄る桐生君。
 恐怖から体がビクンと跳ねる。

 ――ドンドンドンッ!

 ドアを激しく叩く音がした。

「桐生、中にいるんだろ! ドアを開けろ!」

「創ちゃん……」

「どうして彼氏がここに?」

「さっきLINEしたから……」

 桐生君は溜め息を吐きながら、裏口のドアを開けた。

 ドアが開いたと同時に、血相を変えた創ちゃんが店内に飛び込んだ。その背後にはこともあろうにお兄ちゃんまで一緒だ。

「お前、礼奈に何をした!」

「まだ何もしてませんよ」

「俺の妹に指一本触れたら、たたじゃおかねえぞ! 礼奈、帰るぞ」

「お兄ちゃん……。桐生君、さよなら」

 私は創ちゃんに腕を捕まれ、ショップの外に連れ出された。

 さっき桐生君が別人に見えたんだ。
 普段の爽やかな桐生君じゃなくて、絵本のあかずきんに登場する狼に見えた。