【礼奈side】

 夜、体育祭のポスターのデッサンをしていたら、創ちゃんから電話がかかってきた。

『礼奈、オレ、オレ。オレオレ詐欺じゃないからね』

 そんなの声を聞いただけでわかるよ。

「創ちゃんでしょう。もうバイト終わったの?」

『今、休憩中。今日さ、サッカー部のマネージャーにビデオ店の前で会ったよ』

「鈴木先輩に?」

『うん、何か元気なかったから。俺なりにアドバイスした』

「創ちゃんが鈴木先輩にアドバイス? 何を話したの?」

『それは守秘義務に反するから、ちょっと言えないな』

「やだ、意地悪ね」

 創ちゃんの声を聞きながら、スケッチブックに色を塗る。

『礼奈、サッカー部のマネージャーを辞めたんだってな』

「うん、恋のキューピッドになるどころか、鈴木先輩に悪いことしちゃった」

『他の部活を考えてるのか?』

「中学校の時みたいに、美術部に入ろうかなって思ってる」

『そっか、礼奈は絵を描くのが上手だからいいんじゃない。今、部屋で何してるの?』

「体育祭のポスターのデッサンしてる。生徒会の一橋先輩に頼まれたんだ」

『一橋……まさか、中学校の生徒会長だった男子か!』

「そうだけど。頼りがいあるし、優しい先輩なんだよ」

『ば、ばか。優しい男なんていないよ。男はみんな狼なんだから』

「創ちゃんと一緒にしないで」

『がうぅぅー』

「うふふっ、ほらね。すぐに狼になるんだから。でも心配しないで。一橋先輩にも、ちゃんと創ちゃんのことを話してあるからね」

 創ちゃんは電話口でずっと犬みたいに唸ってたけど、休憩時間が終わり電話を切った。

 鈴木先輩と他に何を話したのかな?

 凄く気になったけど、ポスターのデッサンを仕上げることに集中するために、折り返し電話することもLINEすることも我慢して、色々な構図や配色で何枚か作成した。

 サッカー部は仮入部だったとはいえ、ちゃんと顧問の先生や部員に、自分の口から辞めることを言わないといけない。

 こんな形で突然辞めるなんて、無責任で私自身も嫌だから。

 久しぶりに集中してデッサンした私は、「ふぁー」と背伸びをして、疲れた目を擦る。

 時計を見ると、すでに深夜零時を回っていた。