「今、部活の帰り? 家はこの近くなのか?」

「進学塾がこの近くなんです」

「そうか、もうすぐマネージャー引退なんだろう。サッカーのルールもわからない礼奈に、君の後任が務まるかな」

「南さんはサッカー部を辞めました。私が……酷いことを言ったから」

「もう辞めたのか? 元々礼奈に運動部のマネージャーは向いてないからな。もしかして、何かしでかした?」

「違います。はぁー……自分が嫌になる。南さんが羨ましくて、つい八つ当たりしてしまいました」

「礼奈が羨ましい?」

「はい。素敵な彼氏がいるのに。部活でもモテるから……」

「それ、山梨君のこと?」

「わ、わ、知ってるんですか?」

「礼奈は俺に隠し事はしないから。全部知ってるよ」

「そうですか……。素敵な関係なんですね。山梨君は昨日あなたと南さんを見て、相当ショックだったみたいで。落ち込んでいてサッカーにも集中できなくて、私、全部南さんのせいだって言ってしまったんです」

「ちょっと……やり過ぎたかな?」

「やり過ぎた?」

 彼女は俺の言葉に首を傾げた。

「ごめん、昨日礼奈と逢ったのは偶然じゃないんだ。山梨君が礼奈に好意を持ってることを知ってて、諦めさせるためにちょっと荒療治した」

「えっ? わざと……手を繋いだりイチャイチャしたんですか?」

「うん。君は山梨君のことが好きなんだろう」

「はっ……? わ、私はただの幼なじみです。好きだなんて……」

「男子は失恋に弱いんだよ。女子よりダメージ受けるかも。未練がましいしね。俺がそうだったから」

「あなたが……?」

「そんな時にふと気付くものだ。傍にいる大切な人に。俺が礼奈に気付いたみたいにね」

「あなたが……南さんに……」

「俺は礼奈の兄貴と親友でね。礼奈は小学生の頃から、ずっと俺のことを想っていてくれたんだ。俺が他の女子と付き合ってた時も、ずっと……」

「南さんが……」

「礼奈に告白されてやっと気付いたんだ。男は鈍感だから、告白されないと気付けない時もある」

 彼女は真剣な表情で黙り込む。

「自分の気持ちは相手に伝えた方がいいよ。じゃあ俺はバイトがあるから。またね」

「……はい、失礼します」

 彼女は俺にペコリと頭を下げた。

 恋のキューピッドは大失敗したようだな。
 サッカー部のマネージャーも、もう辞めたのか? なんて根気がないんだ。

 だけど狼の群れから脱出してくれて、内心ホッとした。