【創side】

「ヘックシュン! ヘックション!」

「うわっ、きたねーな。お前、花粉症か?」

「俺の噂を、誰かがしてるに違いない」

「お前の噂なんて、誰がするんだよ。お前の悪口ならあり得るけどな」

「悪口? 誰が俺の悪口を言うんだよ。言うとしたらこの口か」

 憎たらしい敏樹の口を、ムギュッと指で捻る。

「イテテ。俺の顔のパーツで美貴が一番お気に入りの唇を、お前の指で汚すでない!」

「そのタラコ唇が一番のお気に入り? 美貴ちゃんは、相変わらずマニアだな」

「うっせえ。俺は惚れられてんだよ。羨ましいか」

「全然、羨ましくありません」

 鼻をぐずぐず言わせながら、俺はバイクに跨がる。

「創、今日もバイトか?」

「ああ、バイト。礼奈にプレゼントしたいものがあるし。貯金してるんだ」

「お前は貢《みつぐ》君か? 礼奈に貢いでどうすんだよ。下心ねぇだろうな」

「そんなんじゃねーよ」

 俺はバイクのエンジンを吹かす。

 今はレンタルビデオ店でアルバイトをしている。夜間は時給もいいし、コツコツ貯金。この俺が節約生活だ。

 礼奈と約束したから。
 イミテーションじゃない、本物の宝石。

 なんて……そんなに簡単に金が貯まるわけないか。大学を卒業して、就職しないと無理かもな。

 駅前のビデオ店の駐車場にバイクを停めていると、見覚えのある女子と出くわす。

 服装はフローラ大学附属高校の制服だ。
 冴えない顔で俯いて歩いている彼女。足元の小石を蹴り飛ばすと、その小石は見事に俺の額に命中した。

「いたぁー!」

「きゃあ、すみません、すみません。大丈夫ですか? あ……れ? あなたは……」

 俺は額を擦りながら、彼女をまじまじと見つめた。

「君、サッカー部のマネージャーだよね?」

「あなたは……南さんの彼氏さん!?」

 俺達の声が仲良くハモった。

「お怪我は大丈夫ですか? 本当にごめんなさい」

「たんこぶできた。イケメン台無しだよ」

「イケメン……」

 彼女はキョトンとしている。

「こら、こら、ここは突っ込むとこだよ。真顔でいられたら、ジョークにならないだろう」

 俺の言葉に沈んでいた彼女がクスリと笑った。