「南はさ、運動部より美術部の方が向いてるよ。絵の才能もセンスもあるし。美術部に入ればいいのに。どうせサッカー部のマネージャーは仮入部だったんだろう?」

「お試し期間中にクビになりました」

「お試し期間中か、南らしいな」

 一橋先輩は優しい笑みを浮かべた。

「一橋先輩、恋のキューピッドになるのは大変ですね。私、みんなに迷惑をかけてしまいました」

「恋のキューピッド? 南が? 誰と誰の?」

「それは企業秘密で言えません。どうして男子は女子の気持ちに気付いてくれないのかな。女子から『好き』って言わないと伝わらないのかな。女子の態度で、好きな気持ちがわからないものですか?」

 一橋先輩は笑いながら、私を見つめた。

「『好き』って告白しても伝わらない鈍感な南に、男の気持ちについて、言われたくないな」

「へっ?」

「もしかして、山梨のことを言ってるのか? 俺や山梨が何度もマジ告白してるのに、本気にせず聞き流す南に、恋のキューピッドは無理だよ」

「うわ、わ、すみません……。それはその……」

「謝らなくていいよ。謝られたら傷付くだろう。恋い焦がれる片想いも、悪くはないけどね」

「……す、すみません」

 私は張り子の虎みたいに、ペコペコと頭を下げる。

「鈍感で天然で、南のそんなところが可愛いんだけどね。木っ端微塵に振られても、俺達を避けるわけでもなく、普通に接してくれるから、救われる部分もある。多少は意識して欲しいのに、それもしない」

「……ごめんなさい」

「ずっと先輩と後輩。友達って枠から外されないだけ、マシだけどね。だから今でもこうして先輩と後輩でいられる。山梨はちょっと焦ったのかな。あいつらしくないね」

「一橋先輩も山梨先輩も素敵な先輩だから。私にとって憧れの先輩です。二人とも好きだから……」

「『憧れ』と『恋』は違うだろう。南の『好き』って意味も恋とは違う」

「はい」

「正直だな。南の彼氏は素敵な人なんだろうね。南の幸せそうな顔を見たらわかるよ」

「はい」

 創ちゃんは私の初恋の人。
 創ちゃんのことを褒められると、ちょっと嬉しい。

 今頃、創ちゃんはクシャミをしてるはず。