女子更衣室で百合野はさっさとジャージを脱ぎ捨て、制服に着替えた。

「百合野……先生や鈴木先輩に謝ろうよ」

「謝る? 何で? 何も悪いことしてないじゃん。そもそも部内恋愛禁止だなんて、時代錯誤だよ。私は部内恋愛OKな運動部のマネージャーになりたいの。サッカー部なんてつまんないよ」

「百合野は恋愛がしたくて、マネージャーになったの?」

「当たり前でしょう。私は礼奈みたいに、素敵な彼氏はいないんだから。彼氏急募なのよ」

 確かに、創ちゃんは世界一素敵な彼氏だけど……。

「礼奈も早く着替えなさい。礼奈がグラウンドにいると、山梨先輩、練習にならないよ」

「……やっぱり私のせいだよね」

 ジャージを脱いで制服に着替え、百合野と一緒に女子更衣室を出た。

「次はどの運動部にしようかな。バスケ部か野球部。男子テニス部もいいな」

「そんなに都合よく、マネージャー募集してないから」

 お気楽な百合野は、グラウンドを眺めながら次の標的を探してる。

 私はこんな形でサッカー部を辞めることに、後悔していた。

 でも百合野の言う通り、私がサッカー部に在籍していると、山梨先輩にも鈴木先輩にも迷惑を掛けてしまう。

「はぁー……」

 恋のキューピッドどころか、恋の疫病神だ。

 大きな溜め息を吐いていると、後ろからコツンと頭を叩かれた。

「南」

「ひ、一橋先輩!?」

「溜め息を吐くと幸せが逃げるんだよ。何かあったのか?」

「ちょっと……」

「サッカー部のマネージャーはどうした? まだ部活してるけど。二人揃って早退?」

「それがその……」

「一橋先輩、聞いて下さいよ。頭にきてるんです」

 百合野は興奮冷めやらぬ様子で、一橋先輩にさっきの出来事を全て話した。

 一橋先輩は穏やかな顔で静かに百合野の話を聞いている。流石生徒会副会長。何を聞いても冷静だ。

「成る程ね。山梨が失恋して落ち込んでるのか。あいつ、モテるから失恋慣れしてないんだよ。ああ見えて意外と繊細だからな。それで二人ともサッカー部のマネージャーを辞めるのか?」

「辞めますよ。未練なんてないですから。次を探してるの。ねっ、礼奈」

「……私がマネージャーをしていると、山梨先輩にも鈴木先輩にも迷惑をかけてしまうので」

「そんな理由でマネージャーを辞めるのか? サッカーに情熱がないなら、さっさと辞めた方がいいよ。マネージャーって、部員と同じように情熱や目標を持ってないとできない仕事だから。南、放課後暇になるなら、生徒会を手伝ってくれないか?」

「生徒会……ですか?」

「中学の時も、時々手伝ってくれただろう。俺が生徒会長だった時にさ」

「……はい」

「今、忙しいんだ。もうすぐ体育祭だし、ポスター作りとか、看板とか、制作するのを手伝って欲しいんだ。南はイラスト上手だしね」

 イラストか……。
 絵を描くのは大好き。

 もともと運動音痴だし、どちらかと言えば運動部よりも文化部の方が向いている。

 百合野みたいに、運動部のマネージャーになるのが私の夢じゃない。

 それに……あんな辞め方をしたサッカー部に申し訳なくて、他の運動部のマネージャーにはなれないよ。

「暇なら是非頼みたい」

「……はい」

 こんな私でも人の助けになれるなら、どんな協力も惜しまない。