「おら。早く出せ」


 今日も、尋翔は男子達に囲まれていた。

 この間とは違う男子達に。


「は、はい…」

「ははっ。…おら、金だ」

「…ど、どうも」


 金だけ受け取ると、ダダダッと尋翔はその場を駆け出した。

 
「尋翔ー」


 途中で同級生に声を掛けられたが、尋翔は聞こえていないフリをして、そのまま家まで突っ走る。


 もう、止める。こんな事。こんなの、悠翔を傷つけるだけで、誰にも得は無いじゃないか。


「ごめんっ…。はぁっ、はぁっ…ゆうっ、と…」


 走りながら、尋翔は呟いた。

 その日、悠翔は帰って来なかった。

 いつもの事だから、あまり心配はしなかった。

 しかし、その次の日も、更にその次の日も、尋翔が悠翔の弱点を教えた日から数えて、2週間、悠翔は帰って来なかった。

 親は警察に捜索願を出したが、その結果も空しかった。


「悠翔…」


 尋翔はベッドにもぐり込み、ポツリとそう呟いた。


「ごめん……。ごめんね…」

 
 小さな雫が、敷布団にシミを作った。