「え。兄貴と会った事あるの?」
「う、ん…」
学校を出ても尚、夢子はしゃくり上げ続ける。
2人で肩を並べて、今、家路に着いたばかりだ。
そこで、夢子が翔汰の兄に出会った事がある事を言ってみた。
割と驚いている様子である。
「うそぉ」
「そんな、事で、ウソ吐いても、しょうが、ない」
「ですよねー。……でも、そっかあ」
翔汰は、オレンジ色に染まり始めた空を見上げ、ぽつりと呟いた。
「なっ、にが…」
「え?いや、兄貴がさ。帰って来た時さ、って言っても家に帰って来るなんて事ほとんどないからそれ自体ミラクルだったんだろうけど」
翔汰は、夢子の顔を見ながら後ろ歩きを始めた。
「ある時、すんごい上機嫌で帰って来た時があったんだ」
冷たい光を宿した瞳で帰って来る兄を、嫌と言う程翔汰は見てきた。
が、ある日、上機嫌で兄は帰って来た事があった。
「あれ、どうしたの?兄貴」
「ん~?いやーねぇ…。お前が、前言ってた気になる彼女の事」
「そんなん言ったっけ?」
「あぁ、言ったさ。今日な……。やっぱやーめたっ。なんでもねぇよ」
「えっ?ちょっ、気になるじゃん~」
「秘密だよ、ひ・み・つ」
そう言って、兄は少し砂埃を被った特攻服を脱ぎ捨て、自室へと戻って行った。
「そ、んな事…が」
「うん。その日、すごく気になって眠れなかった。しかも、次の日、夢子、学校に来なかったしさ?」
「あ、いや…その…」
夢子は、まぁ、暴れすぎて身体がバキバキだったので、学校を休んだまでなのだが。

