月曜日、出社してまず向かったのは椎名の所だった。


女性誌の編集部の前まで行き、呼び出して貰えばすぐにやってきた。



「どうした、こっちに来るなんて珍しい」


呼び出された張本人は少しびっくりしているようで、

目を丸くしながら私を見下ろしている。



「この前のことで謝りたくて」

「この前…?あぁ、酒の飲まれまくった時の」

「それにタクシー代まで…。これお返ししますから」




あの日タクシーを降りる際、運転手から既に支払い済みのことを聞いて、

最後の最後まで世話をかけてしまった事をどうしても謝りたかったのだ。



一万円が入った封筒を椎名に差し出すと、
髪を掻きあげため息を付いた。



「そういう気遣いができるんだったらこれからも俺に付き合え。以上」



椎名はそう言い切って、封筒を受け取らずそのまま編集部へと戻っていく。




差し出した所で受け取らないだろうとは思っていたが、
案の定思惑通りだった。


普段から感情を出さないし、冷静沈着なところがあって、

周りから見ればとっつきにくい所があるが、



とても面倒見がいい性格なのは昔から知っている。



それに助けられた事も今回だけじゃない。



さりげない優しさを感じながら、私はその場で軽く頭を下げると自分の部署へ戻った。