「えーと、矢城りまちゃんでいいんだよね?」
社長さんが言葉を発する。
「は、はい……」
「じゃ、これ名刺だから一応持っといてくれるかな?」
はい、と渡された名刺にはsole芸能事務所 社長 藤堂玲(とうどうれい)と書かれてあった。
「それから……、芸能活動についての詳しい活動は來から説明してもらうからよく聞いといてね。
質問とか、その他もろもろなんか言いたいことは後で受け付けるから。………來。」
最後に社長さんが來と先輩の名前を呼ぶと、先輩が説明を引き受けた。
「りま、まずお前にはキャラを変えて芸能活動をしてもらう。」
「はい?………キャラを、変える?」
「ああ。正確に言えば、芸能人として過ごす間は設定のある役を演じ続けてもらおうと思ってる。」
そう言いつつ、たくさん何かが書かれた紙を渡された。
それにざっと目を通す。
~芸能人 矢城りまについて~
芸名:矢城りま
部門:主に女優。
性格:明るい、元気、いつも笑顔。
主な容姿:髪は肩くらいの黒髪ボブ、眼鏡は無し。
注意:時間と約束は守ること。現場での人間関係には気を使うこと。私生活で問題等を起こさないようにすること。
と、書いてあった。
………私は二つのことにツッコミさせていただきたい。
芸名はそのままでこれは全然良い。
部門も女優であっている。
髪はおろしとけということだろう。
………でも眼鏡無しって!?
いや、まだ覚悟してはいたけどさ……。
それと、明るい・元気・いつも笑顔。
これって言っちゃうと私と真逆の性格ですよね?
これで過ごせと……それかなりキツくないですか?
まあ、注意のとこを考えるとしょうがないけど……。
「先輩、これはさすがに無理ではないでしょうか……。」
「なにが?」
いや、なにがって……絶対わかってるよね。
「そのですね、まあ眼鏡は覚悟していたとはいえ、明るい、元気、笑顔って私と真逆の性格……
こんな性格にイメチェンならぬキャラチェンしろっていうのは不可能に近いというかなんというか……。」
「別に俺はキャラを変えろとは言ってない。
芸能人矢城りまを1つの役柄として演じろって言ってるんだ。」
演じる……?この設定の役柄を?
「それともなにか?女優を目指すくせにこんなことも出来ないと……。
それはそれは期待はずれ。お前に期待した俺がバカだったよ。」
なっ……確かにキャラチェン無理って言ったけど、演じることが出来ないなんて言ってない。
それにこの言い方、なんかカチンと来る。
「私……、何があっても役を演じないという選択は絶対にしませんっ。
なにも出来ない私だけど、演じることが好きだからこれだけは宣言できます。」
おどおどしてた私がいきなりこんなことを言うもんだから、先輩だけじゃなく社長さんまで驚いていた。
でもそれから、先輩がいつも通りのにって笑顔で
「よく言ったな」
って言ってくれた。
社長さんも先輩そっくりの表情でにっと笑ったように見えたのは ……気のせいかな?
でも、社長さんが新しいおもちゃを見つけたような目で私を見たのは気のせいじゃないと思う。
