先輩が安全運転なことももうわかっているので、なにも言わずに車が出た。
けど、一昨日は気にならなかった静かな空間が居心地悪くて気まずかった。
………はぁ、いつもなら静かな方がいいと思うのに………。
「……せ、先輩…。」
とうとうこの静けさに耐えられず、声を出してしまう。
「ん?」
穏やかに聞き返す先輩の声を聞いた私は一瞬冷静に考え、冷や汗が吹き出すほどに焦った。
ど、どどどうしよう……。話すことなんてなんも考えてなかったよ~~~!!!!!
「なんだ?」
先輩がもう一度問いかけてくる。
「え、え~とですね……。」
まってまって、なんにも思い付かないんですけど!!!
えーと、えーと……えーーっと!!??
「おい、早く言えよ。」
そうだよ早く言わないと先輩が事故るかもしんないじゃん~~~っ。
「あっ、えと、その……あ!!社長さんってどんな方なんですか!?
お、お父さんなんですよね?」
ふ~、ひとまず安心?
「……親父?」
じゃないよ!!も、もしかして……地雷踏んだ?
声が少し低くなったような気なんてしないよねっ?
「別に、普通?」
ふっ、普通ってなに!?
わかんないよっ?それだけじゃ……。
「えーっと……特に特徴はないと?」
「まあ……無くはないけど……。
強いていうなら仕事好き?それも極度の。」
「つまり……何においても仕事が優先……ってことですか?」
「そ。全然うちには帰ってこないし、仕事については厳しいけど家族のことはほったらかしてるし。
まあ、兄貴のことは跡取りとして一生懸命育ててるけど?」
あ、なんか……。
少しうちと似てるかも。
でも……
「それはちょっと違う気がします……。」
「あ?」
うわっ、やばいって。先輩が怒っちゃう~~!!
けど、さ……。
藤堂先輩のお父さんは家族のこともきちんと考えてるんじゃないかな?
「もし、本当に藤堂先輩のことをどうでも良いって思ってるんなら藤堂先輩に仕事なんてさせませんよ。
スカウトとかさせてるんだから、よっぽど信頼してるんじゃないんですか?
高校生に任せるなんて信頼していないとやれませんよ、絶対。」
