**********************学校への道にて************************************
どうせ家に誰もいないので(使用人は日曜にだけ来て掃除等をする)無言で家を出た。
学校までは2、30分くらい。近くはないけど、朝の静かな道が好きだから歩いていく。
信号があまりない道を通る。
見慣れた店、見慣れた家、見慣れた道。
気持ちの良い陽が差す道をゆっくり歩いていく。
そのまま歩いているとあっという間に着いた楼藺学園。
中高一貫なのはわかるけど、それにしても大きい。
学校のくせに8階と屋上なんておかしいと思う。
それに、花とかも綺麗に手入れされててすっごく華やか。
学校は大好きって訳じゃないけど、この綺麗な学園は嫌いじゃない。
そんなことを考えながら教室に入る。
こんな地味子に話しかけてくれる人はいないので一人静かに椅子に座る。
暇潰しに本でも読もうと開いた瞬間、
「りーまっ、おはよ!!!」
と声をかけてくれた優しくて大好きな羅奈ちゃんの声がした。
「おはよー、羅奈ちゃん。」
「そーだ、昨日ってひまさんが帰ってくる日だったよね!?」
「えっ、なんで知ってるの!?」
「だってりま先々週くらいに言ってたじゃん。」
あれ?そんなこと言った?っていうかそもそも知ってたっけ?
あ、羅奈ちゃんはうちの家庭のことをほぼ全部知っている。
メガネ取ったとこを見せたつもりはないが、去年二人で旅行に行ったときの寝顔を見たらしい。
つまり、メガネを外した状態の寝顔をみて、その後何故か興奮していた。
「うん、今日の朝いきなり出てきてびっくりしたー。」
「アハハっ、なにそれっ。帰ってくるの知ってたのに?」
「あー、すっかり忘れてた。」
「さっすがりま。あっ!!知ってる?昨日來様が中等部の女の子連れ去ったんだって!!!
顔とかはなんもわかんなかったけど、制服的に中等部って言ってたよー!」
……………來?って誰?
「ごめん、來様って誰?」
「えぇっ、嘘!!藤堂來だよ?りま來様のこと知らないの?」
…………ん??藤堂??藤堂、藤堂、藤堂………
「あーーーーーっっ!!!!」
昨日の、藤堂財閥の藤堂先輩じゃん。
え?ということは、羅奈ちゃんの話してる昨日の女の子は………つまり、私?ということですよね……?
「り、りま?いきなり大声出してどうしたの?」
「羅奈ちゃん、驚かないでね………?その中等部の女の子って私っぽい…………。」
「ええぇぇぇーーーーーーーっ!!!!!!」
「羅奈ちゃん、声が大きい………。」
驚かないでって言っといたのに……。
「ご、ごめん。てかさっきのりまの声のがでかかったから。」
それもそうなんですけどね?
羅奈ちゃんが叫んだら、目立つんだから気づかれちゃうじゃん。
ほら、近くの男子がちら見してるし………いやガン見?
「それで、來様ってどんな人なの?」
「もーね、すごいよ!!
学年一位の頭、抜群の運動神経、顔良し性格良しっ。それに加えて藤堂財閥の御曹司
完璧なこの学園の王子さまなんだよーー!!」
「すご……。」
学年一位に運動できて顔良くて性格良くてお金持ち……。
もはや嫌みでしかない!!!
………ん?性格って、良かったっけ?
「ほんとすごいよねー。憧れるわー。
あっ、それでなんでその來様とりまが知り合いなの?」
「まあ、いろいろとありまして……。
それよりこのこと秘密にしといてね、羅奈ちゃん!!」
「わかってるよー。來様と知り合いの中等部女子なんて妬みの的だもんね!!!
なにがあってもおかしくない!みたいな?」
「………それがわかってるならもっと声を小さくしてください。」
こんなことで血祭りとかにあったらたまったもんじゃない。
「まあーそれはおいといて?いろいろって何?」
置いとかれちゃうんですかー。私の平穏な学校生活。
………羅奈ちゃんって優しいけどたまにひどいよね、うん。
ていうか、羅奈ちゃんに隠し事したくないけど演技のことは言いたくないんだよねぇ………。
「……………」
「あっ………ごめん、聞いちゃいけなかったのかな?」
「……そういうわけじゃぁ……ないんだけど……。」
「んー、無理に話せとは言わないけど、できたら話してほしいなーなんてね。」
これは……気を使わしちゃってるんだよね。羅奈ちゃんは私の闇を知ってるから。
けど、ここで隠したら裏切りになっちゃうのかな。
「あーりま?ほんと言わなくて大丈夫だよ?」
そういいつつも羅奈ちゃんの顔には寂しそうな、傷ついたような表情が少し出ている。
それでも無理して笑顔を作ってるのをみてそうさせてるのは自分なのだと気づいて、何故か泣きたくなった。
あ………私は今、私なんかのことを本気で心配してくれている大切な人を裏切ろうとしているんだ。
自分がやっていることを自覚した瞬間、 羅奈ちゃんにすべてを話した。
昨日のことや、羅奈ちゃんのいない日にいく図書室でやっていることについて。
家庭事情は知っていてもメガネや私の心を知らなかった羅奈ちゃんに、それもすべて。
羅奈ちゃんは静かに最後まで話を聞いてくれた。
まるで、昨日の藤堂先輩のように。
羅奈ちゃんは多少驚いたが、私が言いたくない理由にも気づいてたようで、なにも言わなかった。
そして、今まで話したことのなかった闇を2人に話した私には複雑な感情が残った。
別に、こんな反応が来るだろうとか予測していた訳じゃない。
でも、私の話を静かに聞いてくれた二人は私を受け入れてくれたようで、認めてくれているようで……
ずっと心につっかえていたものが、少し軽くなったような気がした。
