「夢とは、果てない荒野をひとりで彷徨うように、曖昧で不確かなものだ」



その人は、分厚い本の、丁度真ん中の頁を見詰めながら、此方に言う。


「わかるかね?…つまり夢とは、先が見えないからこそ夢なのだよ」


まるで聖像画に出てくる主キリストのような、ふくよかに伸びた顎髭をゆったりと撫で、見ていたものから視線を外す。


その瞳には、威圧やそれに準じる感情はなく、ただ淡々と此方の答えを期待する感情が宿っていた。