「えっ?」


今零君の声が聞こえたような・・・。


零君に何かあったのかな・・・?


すると丘から少し離れた所で祭りとは違う騒がしい声が聞こえてきた。

「ピーポーピーポー」


少し遠くでは、救急車がこっちに向かってきている。


(零君じゃないよね・・・?
零君にもしもの事があったら・・・)


天羽は急ぎ足で向かった。



私は人混みを掻き分けるように走った。

(零君・・・。零君・・・。)

私は心の中でなんども零君の名前を呼び今すぐ零君に、会いたい気持ちで胸が一杯だった。



息が切れる程走った。
そして人混みの近くに来て走るスピードを緩め歩いた。
まだ息は荒い。

すると、近くにいた人が

「中高生くらいの男子が、急に倒れて意識不明なんだってよ。さっき救急隊の人きて、何回も呼んで意識を確認したが、反応がなかったんだってと。」

中高生・・・。
益々不安が高まった。

「その人って、メガネかけてました?!」

「いや、俺は見てないからなあ」

「そうですか・・・。」


私は、救急車の周りに戯れている人を掻き分けて前に出た。

そこで目にしたのは・・・。


「れ、零くん・・・?零君?零君だよね!ねっ!」

私は駆け寄っていき声を上げて零君を呼んだ。

けれど、やはり反応はない。

「すみませんが、離れていて下さい。」

「えっ、わ、私は零・・・、この人の関係者です。」

「あっ、そうだったんですか。分かりました。」


私は担架に乗せられた零君と一緒に救急車に乗り病院へ向かった。


病院へ着くとすぐに手術室に向かい、
「手術中」
と言う文字が光った。

私は長椅子に座りずっと零君の事を思っていた。

すると、足音がこっちに向かってきている音がした。

顔を上げてその方向を見ると零君のお母さんがきた。

「天羽ちゃん。」

「こんばんわ・・・。」

「いつも迷惑かけてごめんね。」

「い、いえそんな・・・迷惑だなんて・・・。私の方こそ迷惑を、かけているのに・・・。」

「ううん。天羽ちゃんがいたから、今の零があるんだよ。天羽ちゃんがいなかったら零今頃どうなってたか・・・」

「・・・」

「零、お父さん死んじゃったでしょ。
だから、いつもいつも一人で頑張ってきたんだと思うの。
悩み事があっても話してくれないし。
でもね、天羽ちゃんと遊んで帰って来た時はいつも笑顔で帰ってくるの。だから、零には天羽ちゃんがいないといけないんだなって思って・・・」

「いえ。そんな・・・私なんか・・・」

「ううん。天羽ちゃん。
昔約束したんでしょ?零と。
だから、いつまでも零の傍にいてくれないかな?」

「はい。」


私は瞳が熱くなってきた。
すると、段々と涙が頬を伝った。

零君のお母さんも涙目になっていた。


手術は長くなりそうだから、私は涙を拭いお母さんに電話をかけに行った。


「もしもしお母さん?」

「天羽。どうしたの?」

「それがね・・・」

私はさっきあったことを話した。

「えっ・・・それじゃあ、今天羽は病院にいるの?」

「うん。手術終わるまでいていいかな?」

「いいけど、帰りはどうするの?」

「・・・。」

「お母さんも行くから。」

「うん。」



そして、
5分程でお母さんがきた。

「こんばんは。」

「天羽ちゃんのお母さん・・・。態々ありがとうございます。」

「いえ。零君の事も気になるし、それに天羽もいたので。」

「そうですか・・・。」


それからずっと待っていた。

1時間。
2時間。

そして、3時間が経とうとしていた。


時刻は11:48もう少しで今日も終わる。


その時。


「バッ!」


手術室のドアが開き、先生がでてきた。

零君のお母さんはすぐさま駆け寄って行き状況を聞きに行った。

(成功したんだよね?そうだよね?零君が死んじゃうなんて有り得ないもんね)


話しがし終わったのか、二人は頭を互いに下げ零君のお母さんは俯きながら歩いてきた。


(えっ・・・。もしかして・・・失敗・・・。)


お母さんが口を開いて言った


「ど、どうでした?」

すると、零君のお母さんは声を震わせながら言った。

「手は尽くしたけれど、駄目だったって・・・。」

(駄目だった・・・。駄目だったってなに?零君は生きてるよね?そうだよね?)


「そうですか・・・。」

「今日はありがとうございました。天羽ちゃんもありがとうね。」

「はい・・・。」


(なんで?なんで私返事なんかしてるの?零君は死んでなんかいないんだよ?どうして・・・?)


けれど、私の眼からは大粒の涙が流れ視界がぼやけている。

「天羽・・・。」

「お母さん・・・お母さん!どうして・・・どうして零君が死んじゃったの?!どうして・・・どうして・・・。」

私は泣き叫ぶような声でお母さんに、訴えた。


「それは・・・。」

「わかるよ!もう死んじゃったんだから、生き返らないんでしょ?それくらい私だって・・・」


私はもうこれ以上話せなかった。

これ以上零君のお母さんを悲しませたくなかったから・・・。

零君のお母さんも口をおさえて涙を流していた。

お母さんも涙を流し、涙は頬を伝った。


「零君に逢いたい。」

「えっ、でも・・・。」

「良いですよ。最後くらいゆっくり2人で・・・。」

「ありがとうございます。」


私は白い布を顔に被せられた零君の横に立った。

ゆっくりと布を下げて顔を見た。


すると、顔は白くなっていて、唇は青くなっており、いつも見ている零君とは全く違った。


青くなっている唇。
いつもとは違く白くなっている顔。
だが、その顔は・・・


いつも見ている零君の笑顔だった。


『今までありがとう。』

と言っているようだった。

私も、

「今までありがとう。
そして・・・さようなら・・・。」


と言い零君と、お別れした。