老人には恋人が居た。全てにおいて人並みの女性だった。完璧よりも、標準を要求された人だった。その一般的なところに、老人はひかれた。恋人も、老人の熱心な申し入れに答えた。ある日二人は、昔は水草も藻も浮いていなかった水辺を訪れた。若かった二人は、そこに腰掛けて笑いあっていた。すると、後ろを何人かの若い男が大声をあげながら通り過ぎた。水辺の魚を、身を乗り出して見ていた恋人は、ぶつかった若者のせいで水の中へと転落した。若かった老人は、必死で恋人の手を握って引き上げようとした。しかし、恋人はにっこり微笑むと水の中へと消えて行った。『さようなら。』ただ一言そう呟いて。老人は自分を責めた。助けられた愛しい女性を助けられなかったのが、悔しかったのだ。その日以来、水辺は荒れ、元の美しかった水辺ではなくなった。そして、水魔が出現するようになった。老人は、それ以来この小屋に住むようになった。襲われた若者を助けられるように。自分のせいで、犠牲者がでるのは嫌だったから。


