薫の君は浮舟のかたみとして側でつかっていた弟君小君を
連れてお忍びで小野の尼寺へ向かわれます。

小野の里では青々と茂った青葉に埋もれて、夕暮れ蛍の舞い
そうなせせらぎの中に尼君たちの庵があります。

薫の君は駒引き留めて小君に文を手渡します。
小君は姉姫に瓜二つのかわいらしい少年です。

「この文は直に手渡すようにと言われてきました」
取次の尼君は、
「はいはい、あなた様のお尋ねの方はこの奥におられますよ」

「お姉さまでらっしゃいますか?お姉さまですよね?」
「・・・・・・・・」
浮舟は見つめる眼にいっぱいの涙をたたえて、

「お人違いでございましょう。遠い昔にそのようなことが
あったような気もしますが、今では全く思い出せません」
「・・・・」
「どうかご主人様にもそのようにお伝えください。この
お手紙は受け取るわけにはまいりません」

そう言って浮舟は奥へと入ってしまわれました。
落飾された肩までの髪もわびしく、その後ろ姿は
単衣の法衣の中にわずかに震えているようでした。