正直、自分の行動を少しだけ後悔した。
冷たい澄んだ冬の空気は、ピリピリと肌を射す。


今更店内に戻る訳にもいかず、ちょっとでも風が当たらないようにと、店の裏口のある路地に入る。


ここは、陸と初めて言葉を交わした場所だった。
あの日の事を思い出し、始まりはこの場所なのだと、改めて思う。


5分程すると、数メートル離れた裏口のドアが開き、陸の姿が見えた。
コートを羽織り、後ろで結んでいた髪ももう解いている。


陸の名前を呼ぼうとした瞬間。
私の目の前をすり抜ける人影を見た。


何度か見かけた事のある顔。
私なんかよりずっと大人で、自分の魅力も見せ方も熟知している。
そんな…女性。


彼女はツカツカとヒールの音を響かせ私の前を横切ると、陸の目の前に立ち、そしてキスをした。


それはとても無駄のない、私を動揺させるには十分すぎる行動だった。