その日。
私は始めて仕事に行く陸を部屋の中から見送った。
「行って来ます」
そう言って手を振る陸の姿が、まるで子供みたいに可愛らしく思える。
いつもならば陸と一緒に部屋を出るのに、今日はいつもとは違う。
さっき貰った合い鍵で、陸の代わりに施錠をして部屋を出る事ができる。
そんな余裕からか、私はまだ下着の上に陸のTシャツを着たままでいたし、陸を見送った後もしばらくは、お気に入りの場所でゴロゴロと余韻に浸ることができた。
旅に出るという告白を完全に受け入れられた訳ではない。
むしろ、突然すぎて実感すら持てずにいる。
それでも、決して淋しさに溺れていた訳でもなかった。

