彼女は、ゆるやかに口角を上げたまま階数表示の文字盤を見上げていた。 それが、不意にこちらを向いて。 円らな瞳が、俺を捉える。 どきりとした。 虚を突かれたとはいえ、一瞬でも彼女にときめいてしまったことに焦る。 (落ち着け、俺) 「もうすぐ着くよ」 文字盤には高層階の数字。 一分もしないうちにチャイムが鳴り、扉が開いた。