「だから何だ」
「お前の持ち場はここじゃないって言ってんだよ」
「はぁ?」
「女は炊き出しだろっ」
「女はって…」
「なんだよ、その顔は」
「…祥之介。では、私が今日までお前達男と一緒に剣の稽古をしてきたのは、なんの為だ。伊賀を守る為だろっ」
「違うっ」
「違う?」
「お前が剣の稽古をしてきたのは、お前自身を守る為だ」
祥之介の真剣な眼差しに押され成葉は押し黙る。
「…」
「お前は頭領の一人娘だ。お前を失っては俺達の士気がさがる」
「…」
「織田は恐らく明日にでも攻めて来るはずだ。俺達は織田に屈するつもりはない。…だが、兵の数で上回る織田勢に勝つのは至難の業だ」
「…」
「それでも俺達は最後まで戦う。…成葉、お前には、その最後の時まで生き抜いて、伊賀の行く末を見届けて欲しいんだ」
「…祥之介」
「俺達が、伊賀の未来を託せるのは、成葉、お前しかいないんだ」
「…」
「だから、お前は戦わなくていい。なんとしても生き残るんだ」
「…祥之介。お前はこの戦で、死ぬつもりなのか…」
「そんなわけないだろ。…ただ、覚悟は出来ている」