いかん、やばい、目があった。

猫と目が合うというのも些か変な話ではあるが、

その赤を少し薄くしたような瞳に

目が捕らえられて離れなかった。


「にゃぁ?」


そんな俺を硬直から引き戻したのもその猫で。

弱々しい鳴き声と共にこちらを凝視していた。


「わ、悪かったな、にゃんこ」


これでもやるから許してくれ。

鞄のポケットに入れっぱなしだった

昼飯のむしぱんの残りを子猫の口許に置いてやる。

子猫は普通の猫の三倍ぐらい遅い動きでそれを匂い

これまた五倍ぐらいの遅さで食べ始めた。