先輩が卒業する1ヶ月前。
杏莉鈴は告白の返事をしたらしい。
それは、杏莉鈴なりによく考え悩んで出したのだろう。
振られたと言うのに、進路が決まった先輩は推薦で受かったので部活に顔を出していた。
杏莉鈴とも何もなかったかのように接してくれて、俺は心からホッとした。
そしてその先輩も今日卒業する。
「先輩、御卒業おめでとうございます」
泣きながら嗚咽をついている杏莉鈴。
「杏莉鈴ちゃんが泣いてくれるなんて今迄なかったじゃん」
なんていいながらも凄く嬉しそうな先輩。
「だって、中学の頃も引退の時もまだ会えると思ってたから涙が出なかっただけで、もう会えないじゃないですか~!」
「なんだったら俺のいる大学に受験してもいいんだよ?」
「それは嫌です~!」
「だったら出待ちでも」
「めんどくさいです~!」
「じゃ、連絡くれたら絶対会いに行くから」
「それは絶対ないです~!」
とことん否定されている先輩を見て気の毒に思えてくる。
「でもっ」
目から流れている涙を拭い、真っ直ぐと先輩の目を見つめた。
「その時は絶対来て下さいね」
「・・・・・っ・・・・/////」
惚れた弱みとはこのことなんだろう。
先輩の頬が赤く火照った。
そして俺達は先輩を見送った。
笑顔と涙で。
この時の俺達は進級して事件が起こるなんて全く感じていなかったのだった。