合格の知らせがあった翌日からすぐに演技レッスンが始まった。

初めてとはいえヒロイン役を任されているあたしは、初日からこっぴどく叱られて芸能界の大変さを思い知った。






初日のレッスンを全て終え、星野さんの待つ待合室へ少しかけ足で向かった。


ドンッーー

軽い衝撃音と同時に、体に痛みが走った。

「あっ…ごめんなさい」

どうやら曲がり角で人と軽く衝突してしまったらしく、慌てて謝った。

「ん…大丈夫」

そう言ってくれるその人を見上げると。

「あ…」

日本国民なら誰でも知っているであろう人だった。

「ん…?気をつけろよ」

思わず声を漏らしたあたしを見て不思議そうにしたあと、そう言ってすぐに去って行ってしまった。

「はい、すみませんでした」

少しずつ小さくなって行くその人の背中に向かって深く頭を下げた。

頭を上げた時にはその人はもう見えなくなっていた。