監督のOKも出て、キスシーンの撮影は無事に終わった。



「…涼平さん?」

ふいに名前を呼ばれ、振り返ると。

困った顔で陽奈ちゃんが立っていた。

「お、陽奈ちゃん。お疲れ」

「お疲れ様です。あの…さっきのって…」

少し気まずそうに尋ねてくる陽奈ちゃん。



だって…あんな顔されたら、無理矢理キスなんてできないよ。

俺の推測だけど、きっと彼女はまだキス未経験。


本当はファーストキス奪っちゃいたかったところだけど。

俺のものにしちゃいたいところだけど。

純粋で儚くて綺麗すぎる彼女は、
俺なんかにはもったいなさすぎる。





「…ファーストキスは、好きな人のためにとっておきなさい」

俺はそれだけを彼女に告げて、足早にその場を去った。