出来上がった写真とプロフィールを持って、事務所に簡単ではあるが挨拶回り。
「木下陽奈さん…ね」
「はい、よろしくお願いします」
今話しているこの方は、どうやらこの事務所の人ではないらしい。
少し丁寧に挨拶をした。
「木下さん」
「あ、はい」
さっきの人に再び声をかけられた。
急だったから、あたしの声…裏返ってたかも。
「今度僕が監督する映画のことなんだけど。まだヒロイン役が決まってなくてね。いくつかの事務所のタレントに声をかけてオーディションしようと思ってるんだけど、木下さんも受けてみない?」
「え、あたしが…ですか?あたし演技経験とか全くなくて…」
あまりにも突然すぎる話に、驚きを隠せなかった。
「大丈夫だ。決まってからレッスンでも遅くない。とにかく受けてみてよ、ね?」
社長といい監督といい…
最近あたしの周りにいる人たちは、熱心な人ばかりだ。
「…わかりました。貴重なお話、ありがとうございます」
あたしは頭を下げ、事務所を後にした。
