(遥斗side)




撮影が始まってすぐのこと。
木下が不調らしく、すぐに休憩に入ってしまった。

今日の分のセリフは完璧に頭に入れてある俺は、この休憩の間少し先まで台本を読み進めてみた。

…それにしても、いきなりセリフを忘れるなんて。
いくら新人だからって、この仕事を甘く見られちゃ困る。
だから新人と仕事するのは嫌なんだ。
いろんな意味ですごく…やりにくい。

あいつだって結局は、俺か涼平の彼女っていう肩書き欲しさにこの仕事引き受けたんだろ?

こんなこと言うと自意識過剰だって思われるかもしれないけど、今まで共演してきた新人は少なくともみんなそうだった…。



でも、なんだろう。

あいつのさっきの悲し気な顔は、明らかに演技ではなかった。
勝也の冷たいセリフを、夢芽ではなく木下自身が受け止めたような…そんな感じ。

でも本当にそうだとしたら、なぜあいつがそんなに重く受け止める必要があったんだ…?