「木下さん、セリフ!」
監督の言葉ではっと意識が戻った。
どうやらあたしは、セリフを言うのを忘れてしまったらしい。
それにすらも気づかないでいた。
「…ごめんなさい」
驚きと申し訳なさのあまり、俯き続けた。
「休憩、入れようか」
監督がそう言うとスタッフ一同がうんうんと頷き、あたしを控え室まで送ってくれた。
ガチャリ、と控え室の扉を開けると、そこには見覚えのある人がいた。
「あ…っと、陽奈ちゃん…だよね?」
金髪に近い茶色い髪をした彼は、あたしの名前を呼んだ。
「はい…えっと、相原さん…」
「涼平でいいから」
子供のような笑顔を向けてくる彼は、相原涼平さん。
出番がまだだったのか、控え室で台本を読んでいた。
「じゃあ…涼平さん。すみません、お邪魔しちゃって」
「ははっ、ここ俺だけの控え室じゃないし」
また、無邪気に笑う。
同じdropsのメンバーでも、安藤さんとはタイプが全然違う。
