「よーい、スタート」
監督の声と共にカチッとカチンコが鳴る。
この音もだいぶ聞き慣れた。
このシーンが終わったら、あたしのグアムでの撮影は全て終わる。
『夢芽』
あたしの役名を呼ぶ遥斗さんに、ついドキッとしてしまう。
『…なに?』
『この間は悪かった。守れなくて…』
切なげな表情をする遥斗さんは、いつもより色っぽい。
『大丈夫。あれはなかったことにするから』
『俺さ…』
少し俯いた遥斗さんの髪が風になびく。
ミルクティー色の、サラサラで綺麗な髪。
『ん?』
『お前が他の男にキスされたって聞いて、すっげー腹立ったし…何よりショックだった。お前のファーストキスは俺が奪ってやるって決めてたのに…』
悔しそうに歯を食いしばる遥斗さんの姿に、ドキンと苦しいくらい胸が鳴る。
…あれ?
あたし…演技中なのに、ちゃんと『勝也』として見れてない。
ダメだよ…。
これは演技なんだから…あたし自身がドキドキしたらダメ。
『え?…かつ…や?』
いつもと違う自分に戸惑いを覚えつつ、あたしもセリフを放つ。
『…俺、お前が好きだ』
