とろける恋のヴィブラート

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 すっかり日も暮れ、静かな夜の始まりに心地よい風を受けながら、奏は一人テラスでぼんやりと空を眺めていた。御堂のマンションは高級マンションなだけあって眺めも良い。きっと、この景色が気に入ってここに住むことにしたのだろう。


(全部何もかもが終わったら、私のこと俺のものにするって言ってたくせに……)


 ちらりと見ると、視線の先で未だに目を覚まさない御堂が、ベッドの上で静かな寝息を立てている。


 エドガーはハイヤーで奏たちを送っていった後、瑞希と共にすぐに日本を立った。瑞希の話によると、明日パリで公演を控えていたらしい。そんな大事な仕事があるのにも関わらず、エドガーはギリギリまで日本に留まっていてくれたのだ。


 ――人を愛することで、音楽はまた新しいものを生む。遠くでしか見守れない私を許してくれ。


 帰り際、眠る御堂に向かってぽつりと語りかけていたエドガーの姿が印象的だった。


 音楽に生きる父親の背中を見て、御堂もまた音楽に生きる道を演奏家として選んだのだ。そして、自分もそんな御堂の姿に憧れて、音楽の道を切り開くことができた。