とろける恋のヴィブラート

「コンサートのオーディエンスというものは、曲さえよければ演奏家のことなどどうでも良かったりする……けど、今日のコンサートに来ていた人たちは皆、お前のことを本当に慕っていたように見えたよ。私も音楽人生、何十年とやってきたが……今日は本当に素晴らしかった。いいものを見させてもらったよ。だからこれはもう必要ないな」


 胸ポケットから一枚のフライトチケットを取り出すと、エドガーはその場でビリビリと破り捨てた。


「カイリ、ひとつ約束してくれないか?」


「なんだ」


「この日本で必ず音楽で成功して見せろ。なんせ、日本はお前の母親の母国だからな、恥をかかせるなよ?」


 そういうと、エドガーはポンと御堂の肩手を置いた。


「あぁ、約束する。必ずだ」


 奏は、二人のそんなやり取りを、熱くなる目頭を押さえながら見守っていた。


(よかった……! 本当によかった!)


 こぼれそうな涙をそっと拭ったその時だった。


「うわっ!」


「そうと決まれば! コンサート成功を祝して乾杯よ!」


 ドンと瑞希に背中を叩かれて、無理矢理グラスを持たされたかと思うと、トポトポと淡いピンクのドリンクを注がれた。


「ほら! おじさんもカイリも!」


「あ、あぁ……お前、こんなのどこから――」


「いいから! かんぱーい!」


 奏は、勢いに任せてぐっグラスを煽って全て飲み干した。爽快なのどごしが体中に染み渡る。